■「衰退国の先輩」イギリスに学ぶ


「衰退国の先輩」イギリスに学ぶ

菅官房長官によると、安倍政権は「成長戦略に全力を上げる」そうだが、いまだに政府が成長を実現しようという時代錯誤は困ったものだ。もちろんゼロ成長では今後の高齢化に耐えられないので、今ぐらいの成長は維持したほうがいいが、成長がすべてを解決するという幻想は捨てたほうがいい。

イギリスで「産業革命」が起こったとか「産業資本主義」で成長したとかいう常識は、最近の経済史では葬られている。大英帝国のエンジンは産業革命でも綿工業でもなく、北米のプランテーションと奴隷貿易だった。本国の何十倍もの面積をもつアメリカ大陸を経済圏に入れ、そこから砂糖やタバコなどの一次産品を輸入してアフリカに売り、北米に奴隷を輸出する三角貿易が最大のビジネスだった。

この商業革命で上げた巨額の利潤が資本主義を生んだ。産業革命が大英帝国を生んだのではなく、その逆なのだ。その中心となったジェントルマンは産業資本家のように勤勉ではなく、合理的な「ホモ・エコノミクス」でもなかった。しかし彼らが採算を度外視してつくった道路や鉄道などのインフラが産業の基礎になり、彼らのコーヒーハウスが王立科学協会に発展して近代科学を生んだ。

貿易を守る軍事力は初期には海賊だったが、彼らがイギリス海軍となり、七つの海を制覇して世界最大の植民地支配を実現した。17世紀から18世紀にかけてイギリスの貿易は半世紀ごとに3倍になり、このような非ヨーロッパ圏を組み込んだ国際分業体制が近代世界システムを生んだのだ。

彼らはこうして植民地から吸い上げた資本で財政・金融システムを構築し、これが財政=軍事国家の基盤となった。19世紀以降のイギリスは慢性的に貿易赤字で貯蓄超過だったが、その貯蓄を海外に投資し、所得収支は大幅な黒字だった。いまだにその対外債権はアメリカに次いで世界第2位であり、そのストックで息長く食っている。

経済が永遠に成長し続けることはできないし、それが幸福につながるとも限らない。日本がイギリスに学ぶべきなのは「成長戦略」ではなく、成長期の富を世界に投資して末永く収益を確保し、衰退局面に入ってからも100年以上にわたって「美しく老いる」ことのできたイギリスの知恵だろう。衰退国の先輩に学ぶべきことは多い。




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川北 稔

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